映画『イミディエイト・ファミリー』登場人物ガイド

『イミディエイト・ファミリー』を観る前に知っておきたいのは、 この映画の主役が「有名歌手の後ろにいた無名の人たち」ではない、ということ。 彼らは James Taylor、Carole King、Jackson Browne、Linda Ronstadt らのレコードで、 曲の輪郭、手触り、呼吸を作っていた演奏家たちである。 ここでは中心メンバー5人を、ひとりずつ整理する。

全体像

70年代ロサンゼルスのシンガーソングライター作品には、 同じ演奏家たちが何度も登場する。Danny Kortchmar、Leland Sklar、Russ Kunkel は The Section の中核として知られ、そこに Waddy Wachtel、さらに Steve Postell が加わって 現在の The Immediate Family につながった。

guitar / songwriter / producer

Danny Kortchmar ダニー・コーチマー

通称 “Kootch”。ギタリストであり、ソングライターであり、プロデューサーでもある。 彼の仕事は James Taylor との関係から見えやすい。 十代から Taylor と親交を持ち、初期のレコードやツアーで重要な役割を担った。 『Sweet Baby James』Carole King『Tapestry』Jackson Browne『Running on Empty』 へ線を引くと、 70年代LAの人脈が一気につながって見えてくる。

Kortchmar の特徴は、演奏だけで完結しないところにある。 ギターのリフやバッキングで曲を支えながら、アレンジや制作面にも深く入っていく。 後年は Don Henley のソロ作品でも共作者・プロデューサーとして知られるようになった。 映画では「バンドのギタリスト」というより、現場を音楽的に組み立てる人物として見ると分かりやすい。

guitar / music director

Waddy Wachtel ワディ・ワクテル

Waddy Wachtel は、Immediate Family の中で最もロックンロールの匂いが濃いギタリストだ。 Linda Ronstadt のバンドで長く中心的な役割を担い、 Warren Zevon の代表作にも深く関わった。Keith Richards の X-Pensive Winos のメンバーとしても知られる。

彼のギターは、シンガーソングライター作品に少し危険なエッジを足す。 『Hasten Down the Wind』『Simple Dreams』 のような Ronstadt 作品を聴くと、 歌を前に出しながら、曲の芯を太くするギターの役割が見えてくる。 映画の中では、語りの面白さも含めて、最もキャラクターが立つ人物のひとりである。

bass

Leland Sklar リーランド・スカラー

長い白髭で一度見たら忘れにくいが、Leland Sklar の本質は見た目ではなくベースの置き方にある。 派手なフレーズで前に出るより、歌が自然に進むための低音を置く。 James Taylor、Jackson Browne、Linda Ronstadt、Phil Collins など、 何千もの録音に参加してきたとされる理由は、その対応力にある。

『The Pretender』『Running on Empty』 を聴くと、 Sklar のベースは曲を引っ張るというより、曲の床を静かに作っている。 Immediate Family を「職人たちの映画」として観るなら、Sklar はその職人性を最も分かりやすく体現する人物だ。

drums / producer

Russ Kunkel ラス・カンケル

Russ Kunkel は、70年代LAのシンガーソングライター作品を支えた代表的なドラマーである。 『Tapestry』、 James Taylor の作品、Jackson Browne の作品、Linda Ronstadt の作品を横断して、 彼の名前は何度も現れる。

Kunkel の魅力は、叩きすぎないことにある。 曲を大きく見せるために、必要なところでだけ力を入れる。 この抑制が、70年代ウエストコーストの柔らかいロック感を作っている。 派手なドラムソロではなく、歌詞の間、声の余韻、アコースティック・ギターの隙間を聴くと、 Kunkel の仕事の細かさが分かる。

guitar / vocal / producer

Steve Postell スティーヴ・ポステル

Steve Postell は、上の4人とは少し立ち位置が違う。 The Section の70年代黄金期そのものの中心人物ではなく、 The Immediate Family という現在進行形のバンドを成立させるうえで重要なギタリスト/シンガー/ソングライターである。

映画を見るときは、Postell を「伝説の4人に後から加わった人」とだけ見るともったいない。 彼は、過去のセッションマン神話を現在のバンド活動へつなぐ接着剤のような存在だ。 4人が背負っている70年代の記憶を、懐古だけで終わらせず、いま演奏するバンドの形にする。 Immediate Family という名前が単なる回顧企画ではない理由は、Postell の存在にもある。 Steve Postell の経歴とバンドでの役割を詳しく読む →

周辺人物をどう見るか

この映画を理解するには、5人だけでなく、彼らを必要とした歌い手たちを見る必要がある。 James Taylor は Kortchmar、Sklar、Kunkel の初期キャリアを結びつける人物。 Carole King は『Tapestry』を通じて、70年代LAのソングライター人脈を象徴する人物。 Jackson Browne は The Section 的な演奏を、ツアーとレコードの両方で最も濃く記録した人物。 Linda Ronstadt は Wachtel を中心に、歌手とバンドの関係が見えやすい。

関連アルバム

※ 本記事は映画『Immediate Family』および The Section / The Immediate Family 周辺の公開情報、 当サイト掲載人物・アルバム記事に基づく整理記事です。パーソネルは作品ごとに異なるため、 詳細は各アルバムページの記述とライナーノーツをご確認ください。