Simple Dreams cover

Simple Dreams

発売
1977年9月
レーベル
Asylum Records
プロデュース
Peter Asher
ジャンル
Pop Rock / Country Rock

Linda Ronstadtの『Simple Dreams』は、1977年9月に発表された8作目のスタジオ・アルバム。日本盤題は『夢はひとつだけ』である。「Blue Bayou」と「It’s So Easy」を全米Top 5へ送り、アルバムもBillboard 200で5週連続1位を記録した。

数字だけを見ればRonstadtの商業的な頂点だが、内容は大ヒット曲だけに寄せていない。Warren Zevon(ウォーレン・ジヴォン)の曲を二つ選び、J.D. Souther(J.D.サウザー)、The Rolling Stones、伝承歌まで一枚に収めた。前作『Hasten Down the Wind』で確立した選曲の方法を、より簡潔なrockとpopへ広げた作品である。

まず押さえたい3点

  • 作品の特徴: 50年代のヒット曲、同時代のロサンゼルス作品、country、rockを、Linda Ronstadtの声と短く整理された演奏で結んだ。
  • まず聴く3曲: 声を長く保つ「Blue Bayou」、Warren Zevon作の「Poor Poor Pitiful Me」、Dolly Partonと歌う「I Never Will Marry」。
  • おすすめする人: Linda Ronstadtの代表曲だけでなく、選曲と西海岸の演奏者まで一枚からたどりたい人。

50年代の名曲と70年代の書き手を並べる

「It’s So Easy」はBuddy Holly(バディ・ホリー)、「Blue Bayou」はRoy Orbison(ロイ・オービソン)で知られる曲である。一方、「Carmelita」と「Poor Poor Pitiful Me」はWarren Zevon、「Simple Man, Simple Dream」はJ.D. Southerが書いた。

古いヒット曲を懐古としてまとめるのではなく、当時の新しいソングライター作品と同じ曲順へ置いている。Ronstadtにとって曲の発表年より重要なのは、自分の声で人物と感情を具体的にできるかどうかだった。

「Tumbling Dice」ではThe Rolling Stonesの曲を女性の視点から歌い、「I Never Will Marry」ではDolly Parton(ドリー・パートン)と声を重ねる。作者も様式も異なるが、歌い手を中心にしたアルバムとして流れが途切れない。

Waddy Wachtelらが作る簡潔なバンド演奏

Peter Asher(ピーター・アッシャー)は、曲数を増やさず10曲に絞り、各曲の違いを残した。Andrew Gold(アンドリュー・ゴールド)、Waddy Wachtel(ワディ・ワクテル)、Kenny Edwards(ケニー・エドワーズ)、Russ Kunkel(ラス・カンケル)らが演奏に参加している。

「It’s So Easy」と「Poor Poor Pitiful Me」ではギターとdrumsが歌を前へ押す。一方、「Blue Bayou」では演奏を急がせず、Ronstadtが音を伸ばす時間を確保する。全曲を同じ密度で録音しないことが、幅広い選曲を整理している。

WachtelやKunkelの名前を追うと、RonstadtだけでなくJackson BrowneやWarren Zevonの作品へつながる。本作は、70年代後半のロサンゼルスで歌手、作者、演奏者が共有していた制作環境を知る入口にもなる。

代表曲と聴きどころ

Blue Bayou

Roy OrbisonとJoe Melson(ジョー・メルソン)の共作。遠く離れた故郷へ戻りたい人物を描き、Ronstadtは低い音から高音まで急がずに移る。伴奏も声を追い越さず、旋律の長さを保つ。

全米3位を記録した本作最大のヒット。声量を見せるだけでなく、一つの音を保ちながら感情を変える歌唱が聴きどころである。

It’s So Easy

Buddy Hollyで知られる短いrock and roll。ギター、drums、コーラスを簡潔に重ね、Ronstadtは言葉を細かく飾らず前へ出す。全米5位を記録した。

「Blue Bayou」と同時期にTop 5へ入り、遅い曲と速い曲の両方で支持された。二曲を続けて聴くと、本作が一つの曲調へ依存していないことが分かる。

Poor Poor Pitiful Me

Warren Zevon作。災難を語る歌詞には皮肉と笑いがあるが、Ronstadt版はguitarとdrumsを強め、明快なrockとして録音した。

作者の癖を消したのではなく、Ronstadtが歌える音域とバンドの推進力へ置き換えている。Zevonの曲を広いpopの聴衆へ届けた代表例である。

Carmelita

同じくWarren Zevon作だが、「Poor Poor Pitiful Me」とは性格が異なる。依存と孤立を扱う歌詞を、過度に速くせず、人物の疲れが残る形で歌う。

同じ作者の二曲を置くことで、RonstadtがZevonを一つの作風だけで理解していなかったことが分かる。明るい代表曲の陰にある、本作の暗い側面を担う。

I Never Will Marry

伝承歌をもとにしたcountry曲で、Dolly Partonがハーモニーを担当する。大編成で盛り上げず、二人の声と簡潔な伴奏を中心に置く。

rock曲の多い本作にも、Ronstadtが以前から持っていたcountryの基盤が残っている。後の『Trio』へ続く関係を確認できる録音でもある。

収録曲

  1. It's So Easy
  2. Carmelita
  3. Simple Man, Simple Dream
  4. Sorrow Lives Here
  5. I Never Will Marry
  6. Blue Bayou
  7. Poor Poor Pitiful Me
  8. Maybe I'm Right
  9. Tumbling Dice
  10. Old Paint

ジャケットについて

ジャケットは化粧台の前に座るLinda Ronstadtを、鏡に映った正面の顔と背中から同時に見せる。刺繍の入った衣装、鏡台の小物、暖色の光まで画面に残した室内写真である。

一人の人物を二つの角度から見せる構図は、力強いrockと抑えたballadを同じ歌手が担うアルバム内容にも重なる。単純な正面写真ではなく、歌手を見る側と本人の視線が鏡の中で交わるジャケットである。

一般的な評価

アルバムはBillboard 200で5週連続1位を記録し、米国で300万枚以上を売り上げた。「Blue Bayou」は全米3位、「It’s So Easy」は5位となり、二曲が同時にTop 5へ入った。

前作までの成功を反復せず、Warren Zevonの新しい曲とRoy Orbison、Buddy Holly、The Rolling Stonesの既成曲を同じアルバムへ収めた。Ronstadtの解釈とロサンゼルスの制作陣による演奏が、全米1位という形で最も広い聴衆へ届いた作品である。

どんな人におすすめか

  • 「Blue Bayou」以外のLinda Ronstadtもまとめて聴きたい人
  • Warren ZevonやJ.D. Southerの曲が別の歌手でどう変わるか知りたい人
  • Waddy Wachtel、Russ Kunkelらセッション・ミュージシャンを追いたい人
  • pop、rock、countryを一枚の中で聴き比べたい人

初めて聴くなら

まず「Blue Bayou」と「It’s So Easy」で歌唱の幅を比べる。次に「Poor Poor Pitiful Me」と「Carmelita」でWarren Zevon作品の二面性を聴き、最後に「I Never Will Marry」へ進むと、本作のcountryの基盤まで見える。

前へ戻るなら『Hasten Down the Wind』。次は『Living in the USA』へ進むと、同じ制作陣がElvis CostelloやLittle Featまで選曲を広げた流れをたどれる。

関連ページ

参考資料

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