Linda Ronstadtの『Heart Like a Wheel』は、1974年11月19日に発表された5作目のスタジオ・アルバム。日本盤題は『悪いあなた』である。R&Bの「You’re No Good」、countryの「When Will I Be Loved」、静かな表題曲を一枚に収め、Billboard 200とシングルの両方で全米1位を獲得した。
本作の強みは、ヒット曲の多さだけではない。Ronstadt自身が書いた曲はないが、異なる時代とジャンルの曲を選び、声の強さと抑制を使い分けることで、一人の歌手のアルバムとして成立させた。70年代のRonstadtを初めて聴く入口であり、選曲と解釈によって作品を作る歌手の代表例でもある。
まず押さえたい3点
- 作品の特徴: R&B、country、folk、ロサンゼルスのソングライター作品を、Linda Ronstadtの声と簡潔なバンド演奏でつないだ。
- まず聴く3曲: 全米1位の「You’re No Good」、声を抑えた「Heart Like a Wheel」、Emmylou Harrisと歌う「I Can’t Help It」。
- おすすめする人: Linda Ronstadtの代表作を一枚で知りたい人、70年代西海岸の歌手と演奏者のつながりをたどりたい人。
全米1位のヒット作であり、選曲のアルバムでもある
収録曲の作者を並べると、本作の範囲が見える。「Faithless Love」はJ.D. Souther(J.D.サウザー)、「Willin’」はLowell George(ローウェル・ジョージ)、「Heart Like a Wheel」はAnna McGarrigle(アンナ・マクギャリグル)の曲である。
さらにPhil Everly(フィル・エヴァリー)作の「When Will I Be Loved」、Hank Williams(ハンク・ウィリアムズ)の「I Can’t Help It」、James Taylor(ジェイムス・テイラー)の「You Can Close Your Eyes」が並ぶ。作者や原曲の様式を統一するのではなく、Ronstadtが曲ごとに声の前へ出し方を変え、アルバムの流れを作っている。
そのため「You’re No Good」だけを聴くと力強いロック作品に思えるが、全編では声量を抑えた曲の比重も大きい。強く歌えることと、強く歌わない判断の両方が、本作を代表作にしている。
Peter AsherとAndrew Goldが作った余白
本作からPeter Asher(ピーター・アッシャー)がプロデュースを担当し、Ronstadtとの長い制作関係が始まった。Asherは声を厚い伴奏で埋めず、曲ごとに必要な楽器を選ぶ。「You’re No Good」ではリズムとギターを押し出し、表題曲では伴奏を減らして言葉と旋律を前へ置く。
Andrew Gold(アンドリュー・ゴールド)はギター、鍵盤、ドラムなどを担当し、複数の曲で演奏の中心を担った。目立つソロを続けるのではなく、短いギターの応答やコーラスによって曲の輪郭を整えている。
Glenn Frey(グレン・フライ)とDon Henley(ドン・ヘンリー)もコーラスで参加した。Eagles結成後の二人が、Ronstadtと共有していたロサンゼルスの制作現場を記録した作品としても聴ける。
代表曲と聴きどころ
You’re No Good
Clint Ballard Jr.(クリント・バラード・ジュニア)が書き、Betty Everett(ベティ・エヴェレット)らが先に録音していた曲。Ronstadt版は、低く抑えた導入からサビへ向けて声と演奏を強める。
終盤ではAndrew Goldのギターが歌の後を引き継ぎ、単純なカバーではなく70年代のロック・レコードとして仕上げている。全米1位を獲得し、Ronstadtの名前を広い聴衆へ届けた曲である。
Heart Like a Wheel
Anna McGarrigle作の表題曲。声量で押さず、言葉の間と旋律の揺れを保って歌う。「You’re No Good」と対照的で、Ronstadtの表現を一方向に決められないことが分かる。
アルバム中央に置かれ、前半のロックと後半のcountryをつなぐ。ヒット曲ではなく表題曲を静かなバラードにしたことが、本作の中心を示している。
When Will I Be Loved
The Everly Brothersで知られるPhil Everly作。短い演奏時間の中で、ギター、リズム、複数の声が無駄なく重なる。Ronstadt版は全米2位を記録した。
原曲の簡潔さを保ちながら、70年代のバンド演奏とRonstadtの強い声を加えている。countryとpopの両方へ届いた本作の性格が分かりやすい。
I Can’t Help It (If I’m Still in Love with You)
Hank Williamsのcountry曲を、Emmylou Harris(エミルー・ハリス)とのハーモニーで歌う。二人の声は完全に同じ響きではなく、それぞれを聞き分けられるまま重なる。
この録音でRonstadtは最初のグラミー賞、Best Country Vocal Performance, Femaleを受賞した。大きな声の印象が強い歌手だが、旋律を崩さず相手の声を聴きながら歌う力も確認できる。
Willin’
Little FeatのLowell George作。長距離運転手を描いた曲を、派手なロックにせず、疲労と移動の感覚が残る速さで歌う。
同じ曲は多くの歌手に取り上げられているが、Ronstadt版では語り口を保ちながらサビで声を広げる。ロサンゼルス周辺のソングライター作品を広い聴衆へ運んだ例である。
収録曲
- You're No Good
- It Doesn't Matter Anymore
- Faithless Love
- The Dark End of the Street
- Heart Like a Wheel
- When Will I Be Loved
- Willin'
- I Can't Help It (If I'm Still in Love with You)
- Keep Me from Blowing Away
- You Can Close Your Eyes
ジャケットについて
表面は黒い背景の前に立つLinda Ronstadtの肖像、裏面はローラースケート姿という構成。大がかりな舞台や西海岸の風景ではなく、歌手本人を正面に置いている。
アルバム・タイトルや全米1位曲の派手さに対して、表面の色数と情報量は少ない。作品を開くと曲調が大きく変わる一方、ジャケットは一人の声が全曲をまとめることを先に示している。
一般的な評価
アルバムはBillboard 200で1位を獲得し、米国でダブル・プラチナ認定を受けた。「You’re No Good」はBillboard Hot 100で1位、「When Will I Be Loved」は2位を記録している。
第18回グラミー賞ではAlbum of the Yearにノミネートされ、「I Can’t Help It」でRonstadt初の受賞を果たした。2018年にはアルバムがGrammy Hall of Fameへ選ばれている。売上だけでなく、70年代のcountry rockとpopの形を広げた作品として評価が定着している。
どんな人におすすめか
- Linda Ronstadtを代表曲とアルバムの両方から知りたい人
- R&B、country、folkの曲が一人の歌手によってどう変わるか聴きたい人
- Peter AsherやAndrew Goldが作る、歌を中心にした録音に興味がある人
- Eagles、J.D. Souther、Lowell Georgeへつながる人間関係をたどりたい人
初めて聴くなら
まず「You’re No Good」と表題曲を続けて聴き、声と伴奏の強弱を比べる。次に「When Will I Be Loved」で簡潔なpop/countryを聴き、「I Can’t Help It」でEmmylou Harrisとのハーモニーを確認すると、本作の幅がつかみやすい。
次は『Prisoner in Disguise』へ進むと、同じ制作陣がMotown、reggae、同時代のソングライター作品まで選曲を広げた過程が分かる。
関連ページ
- アーティスト: Linda Ronstadt
- アルバム: Prisoner in Disguise
- アルバム: Hasten Down the Wind
- 特集: リンダ・ロンシュタットの70年代名盤を支えたセッションマン
- 特集: ウエストコーストサウンド名盤10選
参考資料
作品を手元で楽しむ
PRCD・レコードの在庫や仕様を販売先で確認できます。関連書籍や正規グッズがある場合は、あわせて掲載します。
※ 上記リンクは広告(アフィリエイト)です。商品ページへ移動し、購入された場合に当サイトに紹介料が発生することがあります。 詳しくは 広告掲載について をご覧ください。
配信で聴く
最終更新: