Prisoner in Disguise cover

Prisoner in Disguise

発売
1975年9月15日
レーベル
Asylum Records
プロデュース
Peter Asher
ジャンル
Pop Rock / Country Rock

Linda Ronstadtの『Prisoner in Disguise』は、1975年9月15日に発表された6作目のスタジオ・アルバム。日本盤題は『哀しみのプリズナー』である。全米1位となった前作『Heart Like a Wheel』の制作陣を引き継ぎながら、Motown、country、reggae、ロサンゼルスのソングライター作品を一枚に並べた。

Ronstadtは多くの曲を書いていない。しかし、誰の曲を選び、どの声で歌い、どの演奏者と組み合わせるかによって、別々の出自を持つ11曲を自分のアルバムにしている。本作は「カバー歌手」という言葉では足りない、解釈者としての力が分かる一枚である。

まず押さえたい3点

  • 作品の特徴: Neil Young、James Taylor、Lowell George、J.D. Souther、Smokey Robinson、Jimmy Cliff、Dolly Partonの曲を、Linda Ronstadtの声を中心に一つの流れへまとめた。
  • まず聴く3曲: Motown曲を強いロックへ変えた「Heat Wave」、J.D. Southerと歌う「Prisoner in Disguise」、Emmylou Harrisとの「The Sweetest Gift」。
  • おすすめする人: 70年代西海岸の歌手とソングライター、セッション・ミュージシャンの関係を一枚からたどりたい人。

なぜ聴く価値があるのか

前作『Heart Like a Wheel』の成功後、同じ作り方をそのまま繰り返すこともできた。本作でもPeter Asher(ピーター・アッシャー)がプロデュースし、Andrew Gold(アンドリュー・ゴールド)が複数の楽器を担当している。しかし選曲はさらに広い。

Neil Youngの「Love Is a Rose」、James Taylorの「Hey Mister, That’s Me Up on the Jukebox」、Little FeatのLowell George(ローウェル・ジョージ)による「Roll Um Easy」、Motownの「Tracks of My Tears」と「Heat Wave」、Jimmy Cliffの「Many Rivers to Cross」、Dolly Partonの「I Will Always Love You」が同居する。

原曲のジャンルを消すのではなく、声の強弱とバンドの編成を変えて順番に置く。作者の違いより、Ronstadtが各曲のどこへ感情の焦点を合わせたかを聴くアルバムである。

Peter Asherとロサンゼルスの演奏者

Peter Asherは、Ronstadtの声を常に大きくするのではなく、曲に応じて伴奏の密度を変えた。「Heat Wave」ではドラムとギターを前へ出し、「Many Rivers to Cross」では声の伸びを生かす。「I Will Always Love You」ではcountryの簡潔さを保つ。

演奏とコーラスにはAndrew Gold、David Lindley(デヴィッド・リンドレー)、James Taylor(ジェイムス・テイラー)、Lowell George、J.D. Souther(J.D.サウザー)、Emmylou Harris(エミルー・ハリス)らが参加した。曲の作者自身や同じロサンゼルスの制作現場にいた演奏者が、Ronstadtの解釈を支えている。

名前の多さより重要なのは、各人が同じ音で全曲を塗らないことだ。スライドギター、アコースティック・ギター、コーラス、鍵盤が曲ごとに入れ替わり、Ronstadtの声も力強いロックから抑えたcountryまで変化する。

選曲が示す三つの方向

第一はMotownである。「Tracks of My Tears」と「Heat Wave」は、1960年代のソウルを70年代のロック・バンドで演奏し直した。Ronstadtは原曲の細かなニュアンスを模写せず、音域と声量を使って自分の曲として歌う。

第二はcountry。「The Sweetest Gift」と「I Will Always Love You」では、声の強さを抑え、旋律と言葉を前へ出す。Emmylou Harrisとのハーモニーは、後の『Trio』へ続く関係も伝える。

第三は同時代のソングライター作品である。J.D. Southerの表題曲と「Silver Blue」、Lowell Georgeの「Roll Um Easy」などを通じて、Ronstadtが周囲の書き手の曲を広い聴衆へ届ける役割を担っていたことが分かる。

代表曲と聴きどころ

Heat Wave

Martha and the Vandellasで知られるMotown曲を、ギターとドラムが押すロックとして録音した。Ronstadtは言葉を細かく崩すより、サビへ向けて声を強くし、曲の熱量を直接伝える。

アルバムの多様さの中でも即効性があり、本作への入口に向く。同じMotown曲「Tracks of My Tears」と比べると、速い曲と遅い曲で声の置き方を変えていることも分かる。

Prisoner in Disguise

J.D. Southerが書き、RonstadtとSoutherが声を重ねる表題曲。相手に近づきたい気持ちと、自分を守ろうとする態度が同居し、感情を一つに決めつけない。

派手なシングル向けの曲ではないが、Ronstadtの歌が作者の言葉をどう具体的な人物へ変えるかがよく分かる。アルバム名を理解する中心曲である。

The Sweetest Gift

Emmylou Harrisと歌うcountry曲。二人は声質が異なるため、完全に溶け合うのではなく、それぞれの声が聞き分けられるままハーモニーになる。

Ronstadt、Harris、Dolly Partonが後に『Trio』を作ることを知って聴くと、三人の関係の前史としても興味深い。本作では大編成にせず、歌そのものを中心に置いている。

Many Rivers to Cross

Jimmy Cliffの曲を、長く伸びる声と厚い伴奏で歌う。reggaeのリズムをそのまま再現するより、困難を越えようとする言葉へ焦点を合わせたバラードになっている。

「Heat Wave」の外向きな力と対照的で、Ronstadtが声量だけでなく、音を保つ時間によって感情を作れることを示す。

I Will Always Love You

Dolly Partonが書いた別れの歌。後年の大規模なポップ・バラード版とは異なり、ここではcountryの簡潔な編成と旋律を保っている。

別れを劇的な対立にせず、相手への感謝と距離を同時に歌う。Ronstadtが強い声を抑えたときの表現を聴く曲である。

収録曲

  1. Love Is a Rose
  2. Hey Mister, That's Me Up on the Jukebox
  3. Roll Um Easy
  4. Tracks of My Tears
  5. Prisoner in Disguise
  6. Heat Wave
  7. Many Rivers to Cross
  8. The Sweetest Gift
  9. You Tell Me That I'm Falling Down
  10. I Will Always Love You
  11. Silver Blue

一般的な評価

アルバムはBillboard 200で4位を記録し、米国でプラチナ認定を受けた。前作の大成功後にも支持を保ち、Ronstadtが一時的なヒット歌手ではなく、アルバム単位で聴かれる存在であることを示した。

『Heart Like a Wheel』のほうが全米1位曲を含む代表作として分かりやすい。一方、本作は選曲の範囲と参加者のつながりがより見えやすい。Linda Ronstadtが70年代のcountry rock、soul、popをつなぐ中心にいたことを知るには、本作のほうが具体的である。

どんな人におすすめか

  • Linda Ronstadtを「You’re No Good」以外の曲から知りたい人
  • Motown、country、Little Featを一枚の中で聴き比べたい人
  • J.D. SoutherやLowell Georgeの曲が別の歌手によってどう変わるかに興味がある人
  • Emmylou Harrisや西海岸のセッション・ミュージシャンとの関係をたどりたい人

初めて聴くなら

最初は「Heat Wave」でロック歌手としての強さを聴き、次に表題曲でJ.D. Southerとの声の重なりを確認する。その後「The Sweetest Gift」と「I Will Always Love You」へ進むと、曲調に応じて声を抑えるRonstadtの幅が分かる。

次に聴くなら『Hasten Down the Wind』。本作で示した選曲眼を保ちながら、Karla Bonoff(カーラ・ボノフ)の曲を軸に、恋愛の揺れを一枚へまとめている。

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参考資料

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