Mud Slide Slim and the Blue Horizon cover

Mud Slide Slim and the Blue Horizon

発売
1971年4月
レーベル
Warner Bros. Records
プロデュース
Peter Asher
ジャンル
Singer-Songwriter / Folk Rock

James Taylorの『Mud Slide Slim and the Blue Horizon』は、1971年4月に発表された3作目のスタジオ・アルバム。『Sweet Baby James』の成功から約1年後、Peter Asherのプロデュースで1971年1月から2月にかけて録音された。

Carole King作の「You’ve Got a Friend」がJames Taylor唯一の全米1位シングルとなった。Carole Kingのピアノ、Joni Mitchellのコーラスに加え、Danny Kortchmar、Leland Sklar、Russ Kunkelが演奏を支える。歌手同士の交流と、のちにThe Sectionを組む奏者たちが一枚の中で交差する作品である。

まず押さえたい3点

  • 最大のヒット: Carole Kingが書いた「You’ve Got a Friend」を録音し、James Taylor初の全米1位を記録した。
  • 演奏の中心: Danny Kortchmarのギター、Leland Sklarのベース、Russ Kunkelのドラムが、声とアコースティック・ギターの周囲に簡潔なバンド演奏を置く。
  • まず聴く3曲: 「You’ve Got a Friend」「You Can Close Your Eyes」「Long Ago and Far Away」。

『Sweet Baby James』の成功後を歌う

前作には「Fire and Rain」のように療養や友人の死へ向き合う曲があった。本作では、成功して旅を続ける歌手が、過去の場所、離れた相手、帰る家について繰り返し歌う。「Places in My Past」「Riding on a Railroad」「Highway Song」「Isn’t It Nice to Be Home Again」という題名だけでも、移動と帰宅がアルバムを貫いていることが分かる。

一方で、13曲を同じ静けさへ揃えてはいない。「Love Has Brought Me Around」はホーンと複数の声で始まり、「Machine Gun Kelly」ではRuss KunkelのブラシとKortchmarの曲を前へ出す。「Let Me Ride」ではゴスペル風のコーラスが加わる。弾き語りの近さを保ちながら、曲ごとにバンドの人数と音量を変えている。

Carole Kingから渡された「You’ve Got a Friend」

Peter Asherの回想によれば、Carole KingはロサンゼルスのTroubadourでJames Taylorと共演した際、サウンドチェックで書き上げたばかりの「You’ve Got a Friend」を演奏した。TaylorとAsherはその場で録音の許可を求め、Kingが応じたという。

King自身の版は『Tapestry』に収録され、Taylor版と同じ1971年に発表された。Taylor版ではKingがピアノを弾き、Joni Mitchellが後半で声を重ねる。Taylorの歌唱は1972年のグラミー賞で男性ポップ・ヴォーカル賞を受賞し、作曲したKingは同曲でソング・オブ・ザ・イヤーを受賞した。

二つの録音を比べると、同じ曲が作者自身のピアノ中心の演奏と、Taylorのギターとバンドを使った演奏でどう変わるかを聴ける。単なる提供曲ではなく、当時のロサンゼルスで歌手と奏者が曲を共有していたことを示す一曲である。

The Sectionへ続く三人

Danny Kortchmar、Leland Sklar、Russ Kunkelは、Taylorの声を押しのける大きな音を使わない。Kortchmarは短いギターの応答を置き、Sklarは歌の下で低音を動かし、Kunkelはブラシや打楽器で速度を保つ。この三人は翌1972年にThe Sectionを結成し、Jackson BrowneやCarole Kingを含むロサンゼルスの録音へ活動を広げていく。

ライナーノーツに登場する架空のバンド名では、SklarがStoney Lee Blue Borne、KunkelがOil Slick、KortchmarがKootcherooに見立てられた。James Taylor個人の作品でありながら、固定した仲間と作ったバンド盤として見る入口にもなる。

代表曲と聴きどころ

Love Has Brought Me Around

ホーン、コーラス、打楽器が順に入り、静かなシンガーソングライター像だけではない本作の入口を作る。冒頭から複数の奏者を使い、Taylorの声がバンドの中央に立つ。

You’ve Got a Friend

Taylorのアコースティック・ギターとCarole Kingのピアノを軸に、後半でJoni Mitchellの声が加わる。楽器を増やして盛り上げるより、旋律と三人の声を残す編曲である。

Places in My Past

育った場所や過去の人間関係を振り返る曲。現在の成功を祝うのではなく、そこへ来るまでに離れた場所を短いピアノ曲として並べる。

You Can Close Your Eyes

Taylorのギターと声を前へ出した短い曲。別れを前提にしながら、離れたあとも歌は残ると相手へ伝える。大きなサビやバンド演奏に頼らず、旋律だけで終盤の中心を作る。

Machine Gun Kelly

Danny Kortchmarが書いた無法者の歌。Russ Kunkelのブラシを使ったドラムが、題材に反して軽く一定の歩調を作る。Taylorの自作曲が続く中で、演奏仲間の作風が見える曲でもある。

Long Ago and Far Away

Carole KingのピアノとJoni Mitchellのコーラスが再び加わる。過去に思い描いた人生と現在の距離を歌い、「You’ve Got a Friend」とは異なる不安を同じ顔ぶれで録音している。シングルは全米31位を記録した。

青いシャツのポートレート

ジャケットは、青いシャツとサスペンダー姿のTaylorを正面から撮ったポートレート。右側には大きく「MUD SLIDE SLIM」、左上には手書き風の名前だけが置かれている。風景写真を使わず、アルバム題の架空の人物をTaylor自身の姿へ重ねる構成である。

前作『Sweet Baby James』の屋外で座る写真と比べると、人物との距離が近い。成功後の作品でありながら、豪華さを見せず、少し所在なさそうに立つ姿が、旅と帰る場所を歌う13曲の入口になっている。

収録曲

  1. Love Has Brought Me Around
  2. You've Got a Friend
  3. Places in My Past
  4. Riding on a Railroad
  5. Soldiers
  6. Mud Slide Slim
  7. Hey Mister, That's Me Up on the Jukebox
  8. You Can Close Your Eyes
  9. Machine Gun Kelly
  10. Long Ago and Far Away
  11. Let Me Ride
  12. Highway Song
  13. Isn't It Nice to Be Home Again

一般的な評価

アルバムはBillboard 200で4週にわたり2位を記録した。同時期にCarole Kingの『Tapestry』が1位を保っていたため、Kingの曲を最大のヒットにしたTaylorのアルバムは、その作者の作品に首位を阻まれる形になった。米国では200万枚相当の認定を受けている。

「You’ve Got a Friend」は全米1位、「Long Ago and Far Away」は31位。大きなシングルを含みながら、残る曲では成功後の落ち着かなさ、移動、過去、帰宅を扱っている。ヒット曲とアルバム全体の温度差まで含めて聴きたい作品である。

初めて聴くなら

最初は「You’ve Got a Friend」と「You Can Close Your Eyes」でTaylorの声とギターを聴く。次に「Love Has Brought Me Around」と「Machine Gun Kelly」へ進むと、Kortchmar、Sklar、Kunkelを含むバンドの働きが分かる。最後に「Long Ago and Far Away」から終曲まで続けると、過去を振り返りながら家へ戻る流れが見える。

前作の出発点を知るなら『Sweet Baby James』、同じ時期のCarole King側から聴くなら『Tapestry』へ進むとよい。

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参考資料

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