For Everyman cover

For Everyman

発売
1973年10月
レーベル
Asylum Records
プロデュース
Jackson Browne
ジャンル
Folk Rock / Singer-Songwriter

Jackson Browneの『For Everyman』は、1973年に発表された2作目のスタジオ・アルバム。「Take It Easy」と「These Days」という、先に他の歌手が広めた曲を自ら録音し、新曲では恋愛、家庭、社会の行方を見つめている。

デビュー作『Jackson Browne』の率直さを残しながら、David Lindley(デヴィッド・リンドレー)との長い共演が始まり、次作『Late for the Sky』へつながるバンド・サウンドが形になった。初期3作の間を埋める一枚ではなく、Browneの歌が個人の内面から「みんなが生き残る道」へ広がった作品である。

まず押さえたい3点

  • 作品の特徴: 自分の迷いや恋愛を歌う曲と、社会から逃げずに連帯を待つ表題曲が同じ一枚に入っている。
  • まず聴く3曲: Eagles版とは表情が異なる「Take It Easy」、若い頃に書いた曲を歌い直した「These Days」、社会への視線を集約した「For Everyman」。
  • おすすめする人:Jackson Browne』から『Late for the Sky』へ、歌詞とバンド演奏がどう深まったかを順番に聴きたい人。

なぜ聴く価値があるのか

本作では、すでに知られていた二曲をJackson Browne自身の声で聴ける。「Take It Easy」はGlenn Frey(グレン・フライ)との共作で、Eaglesが1972年にデビュー・シングルとして発表した。「These Days」はBrowneが10代で書き、Nico(ニコ)をはじめ複数の歌手が先に録音していた曲である。

ただし、本作は作者版の答え合わせではない。「Take It Easy」は「Our Lady of the Well」へ切れ目なく続き、道路を走る軽快な曲から、メキシコの土地と人々を見つめる静かな曲へ景色を変える。「These Days」も、過去を悔やむだけでなく、もう一度動き出そうとする言葉で終わる。既知の曲をアルバムの流れへ置き直したことに意味がある。

David Lindleyとの共演がここから始まる

David Lindleyはギター、スライドギター、フィドルなどを使い、Browneの歌に声とは別の線を加える。本作は、二人の長い音楽的関係が始まったアルバムである。

その役割は派手なソロを弾くことではない。「These Days」では歌の後ろに細い余韻を残し、「For Everyman」では長い言葉の流れを支える。次作『Late for the Sky』でより明確になる、歌詞とギターが応答する形をすでに聴くことができる。

参加者にはGlenn Frey、Don Henley(ドン・ヘンリー)、David Crosby(デヴィッド・クロスビー)、Joni Mitchell(ジョニ・ミッチェル)、Bonnie Raitt(ボニー・レイット)らも名を連ねる。豪華な名前を前へ出す作りではなく、曲ごとにコーラスや楽器の色を変えるロサンゼルスの制作人脈が見える。

個人の迷いから「すべての人」へ

前半には、旅、恋愛、時間への不安が並ぶ。「I Thought I Was a Child」は、自由に生きているつもりだった人物が、相手との出会いによって自分の未熟さに気づく曲。「These Days」では、過去の失敗を忘れられないまま、それでも前へ進もうとする。

後半の「Ready or Not」は、予期しない妊娠と家庭生活を題材にした軽快な物語である。深刻な内省だけでなく、戸惑いをユーモアに変える曲が入ることで、アルバムの人物像が一面的にならない。

最後の「Sing My Songs to Me」から「For Everyman」へ進むと、視点は自分の記憶から共同体へ広がる。表題曲は、Crosby, Stills & Nashの「Wooden Ships」が描いた破局後の脱出に対する応答として書かれた。自分と仲間だけが逃げるのではなく、誰もが救われる道を待つという立場が、アルバムの結論になる。

代表曲と聴きどころ

Take It Easy

Glenn Freyとの共作曲。Eagles版の鋭いコーラスと疾走感に比べ、Browne版は声と演奏に少し余白があり、旅の歌というより、走り続ける人物が自分へ言い聞かせる歌として聞こえる。

曲の終わりは「Our Lady of the Well」へつながる。この二曲を続けて聴くと、アメリカの道路からメキシコの井戸へ場面が移り、自由を求める旅にも帰るべき場所が残っていることが分かる。

These Days

若い時期に書かれた曲だが、Browneは本作で過度に若さを強調せず、後悔と再出発を落ち着いた速度で歌う。Gregg Allman(グレッグ・オールマン)の録音から影響を受けた編曲で、David Lindleyのギターが声の間を埋めていく。

過去の失敗を並べたまま終わらず、動き続ければ状況は変わるという方向へ言葉を直している。悲観の名曲というより、立ち止まった人が再び歩く直前の歌として聴ける。

For Everyman

約6分を使い、終末への不安、別の土地へ逃げたい願望、答えを示す人物への期待を順番に考える。Browneは明確な解決策を持っているとは言わない。それでも一人で切り抜けるだけでは足りず、いつか他者の助けが必要になると歌う。

個人的な感情を丁寧に追う初期Browneの書き方が、社会全体の問題へ向けられた曲である。後の「Before the Deluge」や政治的な作品を理解するうえでも起点になる。

I Thought I Was a Child

自分は自由で経験もあると思っていた人物が、相手のまなざしによって考えを崩される。恋愛を理想化するのではなく、自分が思い込んでいた人物像を見直す歌である。

声を張り上げずに長い言葉を運び、楽器がその後ろで静かに変化する。本作から『Late for the Sky』へ続く、考えが動く過程を一曲の中で聴かせる書き方がよく分かる。

収録曲

  1. Take It Easy
  2. Our Lady of the Well
  3. Colors of the Sun
  4. I Thought I Was a Child
  5. These Days
  6. Redneck Friend
  7. The Times You've Come
  8. Ready or Not
  9. Sing My Songs to Me
  10. For Everyman

一般的な評価

『For Everyman』は米国でプラチナ認定を受け、Browneの初期を代表する作品として定着した。大きなシングル・ヒットで知られるアルバムではないが、「Take It Easy」「These Days」「For Everyman」は後の公演や編集盤でも重要曲として扱われている。

デビュー作ほど曲調が散らばらず、『Late for the Sky』ほど一枚の主題を厳密に絞ってもいない。その中間にあるから弱いのではなく、既作曲を自分の物語へ戻し、David Lindleyとの演奏を始め、個人と社会を同時に扱う形を作った点が本作の価値である。

どんな人におすすめか

  • Eagles版とは異なる「Take It Easy」をアルバムの流れで聴きたい人
  • 「These Days」の作者自身による録音を知りたい人
  • David LindleyとJackson Browneの共演を最初からたどりたい人
  • 70年代ロサンゼルスの歌手、演奏者、ソングライターのつながりに興味がある人

初めて聴くなら

まず「Take It Easy」から「Our Lady of the Well」までを続けて聴く。次に「These Days」でBrowneとDavid Lindleyの間合いを確認し、最後に「Sing My Songs to Me」から表題曲へ進むと、アルバムが個人の記憶から社会へ視野を広げる構成が分かる。

次に聴く一枚は『Late for the Sky』。本作で始まったLindleyとの演奏と長い歌詞が、より統一されたアルバムへ発展する。

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参考資料

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