Jackson Browneの『Late for the Sky』は、1974年9月13日に発表された3作目のスタジオ・アルバム。一言でいえば、関係の終わりを見つめる個人的な歌から、生と死、社会の行方へ視野を広げていく一枚である。
Browne自身とAl Schmittが共同プロデュースし、David Lindleyのスライドギターやフィドルが歌の余白を支えた。シングルとして大きなヒットは生まれなかったが、アルバムはBillboard 200で14位を記録。全8曲を通して聴くことで、長い歌詞とバンド演奏が少しずつ大きな主題へ向かう構成が見えてくる。
まず押さえたい3点
- 作品の特徴: 恋愛、記憶、死、社会への不安を、長い歌詞と抑制された演奏でつないだアルバム。
- まず聴く3曲: 関係の終わりを描く「Late for the Sky」、記憶をたどる「Fountain of Sorrow」、死者を見送る「For a Dancer」。
- おすすめする人: 派手な展開より、歌詞と演奏の細かな変化を時間をかけて味わいたい人。
なぜ聴く価値があるのか
本作を聴く価値は、個人的な別れや後悔を歌いながら、それを一人だけの出来事で終わらせない点にある。「Late for the Sky」と「Fountain of Sorrow」では二人の関係を見つめ、「For a Dancer」では死と残された人を考え、最後の「Before the Deluge」では社会全体の未来へ視線を移す。
Jackson Browneの歌は、結論を短く言い切るより、考えが揺れ動く過程を長い言葉で追っていく。曲もその言葉を急がせず、ピアノ、オルガン、ギター、コーラスを必要な場所に置いて進む。見出しになるような一節だけでなく、一曲の流れそのものに意味がある作品である。
前作『For Everyman』までに形作ったフォークロックを保ちながら、関係の終わりから死、社会の行方へ主題を広げ、8曲を一つの流れに並べた。初期Jackson Browneの作風を一枚で知るなら、本作が中心になる。
David Lindleyが歌に加えた余韻
David Lindleyの役割は、スライドギターを目立たせることだけではない。Browneの声が言葉を置いた後に、細く伸びる音や短い応答を加え、歌詞だけでは説明しきれない感情を受け持っている。
タイトル曲では、静かな歌と鍵盤の間にギターが入り、会話が終わった後の距離を感じさせる。「For a Dancer」のフィドルや「The Road and the Sky」の力強い演奏まで含めると、Lindleyが曲ごとに音色を変えながらアルバムの幅を作っていることが分かる。
演奏陣にはDoug Haywood、Larry Zackらが参加し、ゲストとしてDan Fogelberg、Don Henley、J.D. Southerも名を連ねた。個々の演奏を前に出すより、Browneの長い歌を一つのバンド・サウンドとして支える配置になっている。
8曲で視野を広げる構成
前半4曲は、二人の関係と記憶を中心に進む。「Late for the Sky」で意思疎通の終わりを認め、「Fountain of Sorrow」で過去の記憶を見直し、「Farther On」と「The Late Show」で孤独の中から次へ進もうとする。
後半は音の動きが大きくなる。「The Road and the Sky」が速度を加えた後、「For a Dancer」が死と生を静かに見つめる。「Walking Slow」で日常の感触へ戻り、「Before the Deluge」が個人の物語を社会と未来の問題へ広げて終わる。
8曲と曲数は少ないが、一曲ごとの時間が長く、前半と後半の対照もはっきりしている。シャッフル再生より、曲順どおりに聴くことで意図が伝わりやすい。
代表曲と聴きどころ
Late for the Sky
本作の入口になるのがタイトル曲である。関係がすでに終わりに近いことを、相手との会話を振り返るような言葉で認めていく。ピアノを中心にした静かな演奏とDavid Lindleyのギターが、感情を大きく煽らずに距離を作る。
Martin Scorsese監督の映画『Taxi Driver』では、主人公Travis Bickleがテレビを見る場面に使われた。映画のために書かれた曲ではないが、孤立した人物の内面と重なる使われ方によっても知られている。
Fountain of Sorrow
過去の写真をきっかけに、記憶と現実のずれをたどる曲である。思い出を美化するだけでなく、自分が相手をどのように見ていたかまで問い直すため、別れの歌でありながら視点が一方向に固定されない。
約7分の長さを使い、同じ旋律へ戻るたびに言葉の意味を変えていく。短いサビの強さより、記憶をたどる時間そのものを聴かせる本作の特徴がよく表れている。
For a Dancer
死者を見送る側の戸惑いを、静かに考え続ける曲が「For a Dancer」である。明快な答えや宗教的な断定を置かず、いなくなった人の生と、残された人がどう生きるかを結びつけている。
David Lindleyのフィドルと控えめなコーラスが、哀悼を過度に劇的にしない。Browneのソングライティングを知るうえで、タイトル曲と並ぶ重要な一曲である。
Before the Deluge
アルバムの視野を個人から社会へ広げる終曲である。理想を掲げた世代の希望と、その後に訪れる破壊への不安を描き、環境や共同体をめぐるBrowneの後年の活動にもつながる主題を示している。
静かな導入から演奏とコーラスが広がり、8曲を大きな余韻で閉じる。『Late for the Sky』を恋愛だけのアルバムにしない役割を担っている。
ジャケットが示す光と時間
郊外の家と古い自動車を写したジャケットは、René Magritteの絵画『光の帝国』に着想を得たものとされる。空は明るい一方、家の周囲は夜のように暗く、一つの画面に異なる時間が同居している。
この視覚的な対照は、穏やかな演奏の中で喪失や不安を扱う本作とよく重なる。車のナンバープレートに置かれたアルバム名も含め、音を聴く前から「時間に遅れた」という題名の感覚を伝えるジャケットである。
収録曲
- Late for the Sky
- Fountain of Sorrow
- Farther On
- The Late Show
- The Road and the Sky
- For a Dancer
- Walking Slow
- Before the Deluge
一般的な評価
Billboard 200で14位を記録し、米国でゴールド認定を受けた。「Walking Slow」と「Fountain of Sorrow」はシングルとしてチャート入りしなかったため、ヒット曲がアルバムを引っ張った作品ではない。それでも全体の統一感と長い歌詞が評価され、Rolling Stone誌の「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」にも選出されている。
入りやすいシングルを並べた作品ではなく、歌詞の密度も高い。そのため気軽なBGMには向かないが、言葉と演奏を一枚の流れとして聴く人には、初期Jackson Browneの特徴が最もまとまった作品の一つである。
どんな人におすすめか
- Jackson Browneの歌詞をアルバム単位で深く読みたい人
- David Lindleyのスライドギターやフィドルが好きな人
- 静かな演奏の中で、恋愛、生と死、社会へ主題が広がる作品を聴きたい人
反対に、まず明快なロック曲から入りたい場合は『Running on Empty』のほうが聴きやすい。本作は一曲だけを試すより、落ち着いて全8曲を聴けるときに向いている。
初めて聴くなら
最初は「Late for the Sky」「Fountain of Sorrow」「For a Dancer」の3曲で、関係、記憶、死という主題の広がりをつかむ。次に「The Road and the Sky」でバンドの動きを聴き、最後に「Before the Deluge」まで通すと、作品全体の構成が見えやすい。
次の一枚には、喪失をより直接的に扱った『The Pretender』、ツアーバンドの演奏を前面に出した『Running on Empty』が続く。演奏陣との関係はJackson BrowneとThe Sectionで確認できる。
関連ページ
- アーティスト:Jackson Browne
- アルバム:The Pretender
- アルバム:Running on Empty
- 特集:Jackson BrowneとThe Section
- 特集:ウエストコーストサウンド名盤10選
参考資料
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