The Doobie Brothersの『Minute by Minute』は、1978年12月1日に発表された8作目のスタジオ・アルバム。Michael McDonald(マイケル・マクドナルド)の声と鍵盤を中心に、horns、厚いコーラス、細かく動くリズムを組み合わせた。日本盤題も『ミニット・バイ・ミニット』である。
『Takin’ It to the Streets』で始まった変化が、本作ではblue-eyed soulとfunkとして整理された。ただしMichael McDonaldだけのアルバムではない。Patrick Simmons(パトリック・シモンズ)の曲、Tom Johnston(トム・ジョンストン)の歌、bluegrass調のインストゥルメンタルも含み、複数の持ち味を一枚へ収めている。
まず押さえたい3点
- 作品の特徴: Michael McDonaldの低い声と鍵盤を中心に、horns、コーラス、短く切れるリズムで後期Doobiesの音を完成させた。
- まず聴く3曲: 全米1位の「What a Fool Believes」、重いリズムの「Minute by Minute」、Tom Johnstonが歌う「Don’t Stop to Watch the Wheels」。
- おすすめする人: AORの滑らかさだけでなく、soul、funk、rock、bluegrassが共存するバンド・アルバムとして聴きたい人。
Michael McDonald期の完成形
Michael McDonald加入後のDoobie Brothersは、ギター・リフを軸にした前期の音へ、鍵盤、複雑な和音、R&Bの歌い回しを加えてきた。本作ではその要素が補助ではなく、曲の骨格になっている。
「What a Fool Believes」ではピアノの反復と跳ねるリズムが曲を進め、「Minute by Minute」では低く重いgrooveの上に声を重ねる。ギターを消したわけではないが、曲の中心を一つのriffではなく、鍵盤、bass、drums、chorusの組み合わせへ移した。
Ted Templeman(テッド・テンプルマン)のプロデュースは、各楽器を滑らかにまとめながら、リズムの細部を残している。AORという言葉から想像される静かな背景音ではなく、演奏の動きを追って聴ける作品である。
Michael McDonaldだけではない
作曲と歌唱の中心はMichael McDonaldだが、Patrick Simmonsの存在も大きい。「Dependin’ on You」は二人の共作で、McDonaldの和音感覚とSimmonsの軽快さが同じ曲に入っている。
「Steamer Lane Breakdown」はSimmonsによるbluegrass調のインストゥルメンタルで、都会的なR&Bだけでは説明できないバンドの幅を示す。速い弦楽器の演奏を挟むことで、アルバム後半の耳触りも切り替わる。
さらに「Don’t Stop to Watch the Wheels」ではTom Johnstonがリード・ボーカルを担当した。Johnstonは当時バンド活動の中心から離れていたが、本作に不参加ではない。前期の力強い声を一曲残し、後期の音の中へバンドの過去を接続している。
代表曲と聴きどころ
What a Fool Believes
Michael McDonaldとKenny Loggins(ケニー・ロギンス)の共作。かつて関係があったと信じる男性と、同じ記憶を共有していない女性を描く。失恋そのものより、自分に都合よく過去を作ってしまう人物が中心にいる。
細かく反復するピアノ、跳ねるbassとdrums、何層ものコーラスが、歌詞の不安定さとは対照的に正確に進む。全米1位を獲得し、後期Doobiesを代表する曲となった。
Minute by Minute
Michael McDonaldとLester Abrams(レスター・エイブラムズ)の共作。速さで押さず、低い鍵盤と重いリズムの反復で緊張を保つ。
表題曲であり、アルバムの音を最も端的に示す。McDonaldの声だけでなく、楽器の隙間、コーラスが入る位置、リズムの細かなずれを聴く曲である。
Dependin’ on You
Patrick SimmonsとMichael McDonaldの共作。軽快なtempoと短いギター、厚いコーラスによって、表題曲より外向きに進む。
二人の書き手が役割を分けた曲ではなく、それぞれの持ち味が一曲の中で交わっている。本作がMcDonaldの事実上のsolo albumではないことを示す。
Don’t Stop to Watch the Wheels
Tom Johnstonがリード・ボーカルを担当するrock曲。McDonaldの低い声が続くアルバムの中で、Johnstonの強い歌い方がすぐに聞き分けられる。
前期へ単純に戻る曲ではなく、後期の整った録音の中へ荒い声を置いている。Doobie Brothersが編成と中心人物を変えながら、過去の音を完全には切り離していないことが分かる。
Steamer Lane Breakdown
Patrick Simmons作のインストゥルメンタル。bluegrassを基調にした速い演奏で、hornsと鍵盤が目立つ本作の中では異質に聞こえる。
しかし前期から続くcountry/roots志向を短い曲で残し、アルバムが一つの様式へ均一化するのを防いでいる。R&B寄りの曲が続く後半で、耳をアコースティックな音へ戻す役割を持つ。
収録曲
- Here to Love You
- What a Fool Believes
- Minute by Minute
- Dependin' on You
- Don't Stop to Watch the Wheels
- Open Your Eyes
- Sweet Feelin'
- Steamer Lane Breakdown
- You Never Change
- How Do the Fools Survive?
ジャケットについて
灰色の背景に、黒いスーツ姿のメンバーを横一列に配置した写真。風景、楽器、演奏場面を使わず、人物と衣装の明暗だけで構成している。
前期作品の土や道路を思わせる図柄と比べると、色数が少なく、輪郭が整理されている。内容も同様に、ギター、鍵盤、複数のボーカルを、各パートがぶつからない録音へまとめている。
一般的な評価
アルバムはBillboard 200で5週連続1位を記録し、米国でトリプル・プラチナ認定を受けた。「What a Fool Believes」もBillboard Hot 100で1位を獲得している。
第22回グラミー賞では、The Doobie Brothersが「What a Fool Believes」でRecord of the Year、『Minute by Minute』でBest Pop Vocal Performance by a Duo or Groupを受賞した。同曲を書いたMichael McDonaldとKenny LogginsはSong of the Yearを受賞している。アルバムはAlbum of the Yearにもノミネートされた。
前期の代表作とは音が大きく異なるが、商業的成功と受賞によって後期Doobiesの評価を確立した。一曲のヒットだけでなく、blue-eyed soulとfunkをバンドの演奏としてまとめた点が現在も評価されている。
どんな人におすすめか
- 「What a Fool Believes」をアルバムの流れで聴きたい人
- Michael McDonaldの声、鍵盤、作曲をまとめて知りたい人
- Patrick SimmonsやTom Johnstonを含むバンド全体の役割を聴き分けたい人
- Steely Dan、Kenny Loggins、70年代後半のAORへ関心がある人
初めて聴くなら
まず「What a Fool Believes」と表題曲で、鍵盤とリズムの違いを聴く。次に「Dependin’ on You」でSimmonsとの接点を確認し、「Don’t Stop to Watch the Wheels」と「Steamer Lane Breakdown」へ進むと、ヒット曲だけでは分からないバンドの幅が見える。
前へ戻るなら『Takin’ It to the Streets』。Michael McDonald加入時に、Tom Johnston、Patrick Simmons、Tiran Porterの曲がどう共存していたかを比較できる。
関連ページ
- アーティスト: The Doobie Brothers
- アルバム: The Captain and Me
- アルバム: What Were Once Vices Are Now Habits
- アルバム: Takin’ It to the Streets
- 特集: ウエストコーストサウンド名盤10選
参考資料
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