Americaの『Hearts』は、1975年3月に発表された5作目のスタジオ・アルバム。前作『Holiday』に続いてGeorge Martinがプロデュースし、Gerry Beckley作の「Sister Golden Hair」が全米1位を獲得した。
アコースティック・ギターと三声のハーモニーを核にしながら、ピアノ、ストリングス、エレクトリック・ギターを自然に組み込んでいる。Dewey Bunnell、Gerry Beckley、Dan Peekの三人が曲作りとリード・ボーカルを分け合い、静かなバラードからリズムの強い曲までを12曲にまとめた。Americaを代表曲からアルバムへ広げて聴きたい人に薦めやすい一枚である。
なぜ『Hearts』は名盤なのか
最大の魅力は、三人の異なる作風が一枚のポップ・アルバムとして無理なくつながっていることだ。Beckleyは明快なメロディと都会的なバラード、Bunnellは風景を思わせる言葉とアコースティックな響き、Peekはソウルやカントリーロックに近い力強さを持ち込む。
冒頭の「Daisy Jane」はピアノを中心に静かに始まり、中盤の「Old Virginia」「People in the Valley」では素朴なフォーク感覚へ戻る。後半に入ると「Woman Tonight」がリズムを強め、終盤の「Sister Golden Hair」が大きなポップソングとして頂点を作る。全曲が同じ穏やかさに寄らず、曲順の中で明暗と速度が変わるため、ヒット曲以外にも耳が向く。
全米1位の曲を含む親しみやすさがありながら、三人組時代のAmericaが持っていた幅も失っていない。初期のフォークロックとGeorge Martin期の洗練が、最も分かりやすく結びついた作品の一つである。
George Martinが整えたサウンド
George Martinとの最初の共同制作だった『Holiday』では、オーケストラやピアノを加えた変化そのものが大きな聴きどころだった。2作目となる『Hearts』では、その手法がさらに自然になり、アレンジが前面に出るのではなく、三人の声と曲を支えている。
「Daisy Jane」のストリングスはBeckleyの歌を包み、「Sister Golden Hair」ではギターとコーラスの輪郭を明るく保つ。「Bell Tree」のような短い小品を挟む構成にも、アルバム全体の流れを意識したMartinらしさがある。The Beatlesの録音でも知られるGeoff Emerickがエンジニアを務め、楽器を重ねながらもボーカルの親密さを残した。
代表曲と聴きどころ
Sister Golden Hair
Gerry Beckley作。歯切れのよいギター、簡潔なリズム、すぐに覚えられるコーラスを持つAmericaの代表曲である。明るいサウンドに対して、歌詞では結婚や約束に踏み切れない揺れる気持ちが語られる。この軽快さとためらいの対照が、単純なラブソングでは終わらない余韻を作った。
「A Horse with No Name」に続くバンド2曲目の全米1位を記録。三人のハーモニーを生かしつつ、1970年代半ばのラジオに似合う簡潔なポップへ仕上げた曲で、『Hearts』の入口として最も分かりやすい。
Daisy Jane
Beckley作のピアノ・バラード。別れた相手のもとへ戻ろうとする思いを、抑えた歌と端正なメロディで聴かせる。George Martinによるストリングスは感情を過剰に盛り上げず、ピアノとボーカルの間に静かな奥行きを加えている。
アルバムの1曲目に置かれ、全米20位のシングルにもなった。「Sister Golden Hair」の明るさとは別の角度から、Beckleyの作曲力を示す一曲である。
Woman Tonight
Dan Peek作。細かく刻むギターと弾むリズム、Peekの力強い歌が中心になり、ソウルやR&Bの感触をAmerica流のコーラスへ取り込んでいる。アコースティックで穏やかな曲が続く中、アルバム後半の空気を切り替える役割を果たす。
Old Virginia
Dan Peek作の簡潔なフォークソング。アコースティック・ギターと三人の声を前に出した作りで、洗練されたGeorge Martin期にも初期Americaの素朴さが残っていたことが分かる。派手な展開はないが、アルバムの温かい中心となる曲だ。
Company
Gerry Beckley作。ピアノを軸にしたドラマ性のある曲で、途中から演奏の密度と緊張感が増していく。「Daisy Jane」や「Sister Golden Hair」とは異なる陰影を持ち、Beckleyが親しみやすいシングルだけでなく、アルバム向きの曲も書いていたことを示している。
『Holiday』との違い
『Holiday』は「Tin Man」「Lonely People」を中心に、George Martinを迎えたことでAmericaの音が広がった転換作だった。『Hearts』ではその新しい制作環境がすでにバンドのものとなり、曲とアレンジの境目がより滑らかになっている。
幻想的な言葉やフォーク色を重視するなら『Holiday』、大きなメロディと曲調の幅を楽しむなら『Hearts』が向く。「Daisy Jane」から「Sister Golden Hair」まで、Beckleyのポップセンスが強く表れている点も後者の特徴だ。二枚を続けて聴くと、George Martinとの共同作業が一年でどのように成熟したかが分かりやすい。
収録曲
- Daisy Jane (Gerry Beckley)
- Half a Man (Dan Peek)
- Midnight (Dewey Bunnell)
- Bell Tree (Dewey Bunnell)
- Old Virginia (Dan Peek)
- People in the Valley (Dewey Bunnell)
- Company (Gerry Beckley)
- Woman Tonight (Dan Peek)
- The Story of a Teenager (Gerry Beckley)
- Sister Golden Hair (Gerry Beckley)
- Tomorrow (Dan Peek)
- Seasons (Dewey Bunnell)
一般的な評価
Billboard 200で4位を記録し、米国でプラチナ認定を受けた。シングル「Sister Golden Hair」が全米1位、「Daisy Jane」が全米20位となり、「Woman Tonight」も全米44位まで上昇した。ヒット曲の強さとアルバム全体のまとまりを両立した、三人組時代後半の代表作である。
初めて聴くなら
まず「Sister Golden Hair」でギターとコーラスの親しみやすさを聴き、次に「Daisy Jane」と「Woman Tonight」へ進むと、BeckleyとPeekの作風の違いが見える。その後はアルバムを冒頭から通して聴き、「Midnight」「People in the Valley」「Seasons」でBunnellが作る風景感を確かめると、三人のバランスがつかみやすい。
前の時代へ戻るなら、開放的なアコースティック・サウンドの『Homecoming』、George Martinとの出発点を聴くなら『Holiday』がおすすめ。次の一枚『Hideaway』では、コロラドのCaribou Ranchへ場所を移し、より厚く落ち着いた音へ進む。作品ごとの違いはAmericaの70年代アルバム案内でもまとめている。
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参考資料
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