Americaの『America』は、1971年12月29日に発表されたデビュー・アルバム。「A Horse with No Name」で知られる作品だが、初期盤にはこの曲が収録されていなかった。先に発売されたシングルが大きな反響を呼び、後の盤で追加されたという珍しい経緯を持つ。
アコースティック・ギターの細かな重なりと三声のハーモニー、乾いた風景を思わせるメロディが、Americaというバンドの原型を作った。「I Need You」「Sandman」など、代表曲以外にも三人の若さと実験性が残る。完成度の整った後年の作品とは違う、親密で少し影のあるフォークロックを味わえる一枚である。
なぜ『America』は名盤なのか
最大の理由は、デビュー作の時点でAmericaの基本となる音がほぼ出来上がっていることだ。二本以上のアコースティック・ギターが別々の動きを作り、その上でGerry Beckley、Dewey Bunnell、Dan Peekの声が重なる。単純に同じコードを鳴らすのではなく、ギター同士が会話するように配置されているため、穏やかな曲にも奥行きがある。
一方で、後の『Homecoming』ほど明るく整理されてはいない。「Sandman」の不穏な空気、「Here」の長い器楽部分、「Donkey Jaw」の重い展開など、初期ならではの試行錯誤が残る。短いヒット曲だけでなく、アルバムで聴かせようとする意欲が強い。
「A Horse with No Name」とアルバムがともに全米1位となり、Americaはデビュー直後から大きな成功を得た。しかし本作の価値は一曲のヒットだけではない。三人の異なるソングライティングと、アコースティック・ギターを中心にした独自の響きを、最初の一枚で示した点にある。
英国で生まれたAmericaのサウンド
三人は米国人だが、出会いと結成の場所は英国だった。ロンドンのCentral High Schoolで知り合い、1970年にAmericaを結成。英国のフォークロックや、Crosby, Stills & Nashに代表されるコーラス・スタイルを吸収しながら、自分たちの音を作った。
アルバムはロンドンのTrident Studiosで録音され、Ian Samwell、Jeff Dexter、Americaがプロデュースを担当した。エンジニアはThe BeatlesやDavid Bowieの録音でも知られるKen Scott。音数を増やしすぎず、ギターの細かな動きと三人の声が近くに聞こえる、少し霞んだ親密な音像に仕上げている。
英国で制作された作品でありながら、歌には砂漠、雨、川、旅といった米国の広い風景を思わせる言葉が多い。実際の土地というより、若い三人が遠くから思い描いたアメリカのイメージが音になっている点も興味深い。
「A Horse with No Name」が後から加わった理由
『America』の初期盤は「A Horse with No Name」を含まない形で発売された。同曲は当初アルバムとは別のシングルとして1971年11月12日に発売され、予想を超える成功を収めたため、その後の盤ではA面に追加された。ジャケットにも収録を示す表記が加えられた。
この経緯から、現在一般的な12曲入りの構成と初期盤では曲数が異なる。アルバムの顔になった曲が完成後に加わったにもかかわらず、乾いたギターと幻想的な言葉はほかの収録曲と自然につながっており、今では本作から切り離せない存在となっている。
代表曲と聴きどころ
A Horse with No Name
Dewey Bunnell作。二つのコードを中心にした反復的なギターと、砂漠を進むような一定のリズムが強い印象を残す。歌詞は現実の物語を細かく説明するのではなく、暑さ、植物、乾いた川床といった断片を並べ、名前のない馬と旅をする映像を作る。
シンプルな構成だからこそ、ギターの音色、コーラス、打楽器の小さな変化がよく聞こえる。全米1位を記録し、Americaの名前を一気に広めた代表曲である。
I Need You
Gerry Beckley作。ピアノと柔らかなコーラスを中心にしたバラードで、複雑な情景よりも失った相手を必要とする気持ちをまっすぐに歌う。全米9位を記録し、「A Horse with No Name」とは異なるAmericaのポップな側面を示した。
後の「Daisy Jane」「Sister Golden Hair」へつながる、Beckleyの明快なメロディ感覚を早くも確認できる。乾いたフォークロックの印象だけでAmericaを捉えないために重要な曲だ。
Sandman
Dewey Bunnell作。低くうねるギターと厚いコーラスが、眠りを題材にしながら落ち着かない緊張感を作る。「A Horse with No Name」の開放的な反復とは違い、暗い陰影と強いリズムを持つ。三人の声が美しく重なるだけでなく、不穏な雰囲気も生み出せることが分かる。
Riverside
アルバムのオープニング曲。左右から絡み合うようなアコースティック・ギターが、Americaの演奏スタイルを最初の数十秒で示す。華やかな装飾を使わず、ギターと声の配置だけで流れを作る本作の入口としてよく機能している。
Here
静かな歌から長めの器楽部分へ進み、再び歌へ戻る構成を持つ。後年の簡潔なソフトロックよりも、フォークと組曲的な展開を結びつけようとする初期の実験性が強い。代表曲だけを聴いたときには見えにくい、デビュー期Americaの野心が表れた一曲である。
『Homecoming』との違い
『Homecoming』は米国へ拠点を移した後に制作され、「Ventura Highway」に象徴される明るさと疾走感が前へ出た。曲も短く整理され、リズム隊の輪郭が明確になっている。
対して『America』は、英国録音らしい内向的な空気と、長い器楽部分を含む曲が残る。「A Horse with No Name」の乾いた景色を好むなら本作、「Ventura Highway」の陽光や開放感を求めるなら『Homecoming』が向く。二枚を順番に聴くと、同じ三人のギターとハーモニーが、短期間でより明るい西海岸サウンドへ変化したことが分かる。
収録曲
(米国盤の構成)
- Riverside
- Sandman
- Three Roses
- Children
- A Horse with No Name
- Here
- I Need You
- Rainy Day
- Never Found the Time
- Clarice
- Donkey Jaw
- Pigeon Song
一般的な評価
Billboard 200で1位を記録し、米国でプラチナ認定を受けた。シングル「A Horse with No Name」も全米1位、「I Need You」は全米9位を記録。デビュー作にしてアルバムとシングルの両方で首位を獲得し、Americaが一曲だけでなくアルバムを作れるグループであることを示した。
初めて聴くなら
最初は「A Horse with No Name」で反復するギターとコーラスを聴き、次に「I Need You」でBeckleyのポップ感覚を確かめる。その後「Riverside」「Sandman」へ進むと、本作が持つギターの奥行きと暗い陰影が見えてくる。「Here」まで聴けば、ヒット曲だけでは分からない実験性もつかめる。
次の一枚は、音が明るく開けて「Ventura Highway」を生んだ『Homecoming』がおすすめ。George Martinを迎えた洗練期へ進むなら『Holiday』がよい。4作の流れはAmericaの70年代アルバム案内でまとめている。
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