The Byrdsの『Sweetheart of the Rodeo』は、1968年8月に発表された6作目のスタジオ・アルバム。日本盤題は『ロデオの恋人』である。Gram Parsons(グラム・パーソンズ)とKevin Kelley(ケヴィン・ケリー)を迎え、NashvilleとLos Angelesで録音した。
folk rockとpsychedelic rockを切り開いたバンドが、pedal steel、fiddle、banjoを使い、country、gospel、伝承歌へ正面から取り組んだ。発売時のチャート成績は低かったが、後年country rockを考える基準作として評価が定着した。
まず押さえたい3点
- 作品の特徴: rock bandがcountry風の装飾を加えたのではなく、Nashvilleの演奏者と伝統的な曲を使い、演奏方法そのものを変えた。
- まず聴く3曲: Bob Dylan作の「You Ain’t Goin’ Nowhere」、Gram ParsonsとChris Hillman作の「Hickory Wind」、The Louvin Brothersの「The Christian Life」。
- おすすめする人: EaglesやPoco以前に、Los Angelesのrockとcountryがどこで結びついたか知りたい人。
Gram Parsons加入で変わった選曲
David CrosbyとMichael Clarkeの脱退後、Roger McGuinn(ロジャー・マッギン)とChris Hillman(クリス・ヒルマン)はGram ParsonsとKevin Kelleyを加えた。Parsonsはcountryへの関心を前へ出し、アルバムの選曲と歌唱に大きく関わった。
Bob Dylanの「You Ain’t Goin’ Nowhere」「Nothing Was Delivered」、The Louvin Brothersの「The Christian Life」、Merle Haggard(マール・ハガード)の「Life in Prison」、Woody Guthrie(ウディ・ガスリー)の「Pretty Boy Floyd」が並ぶ。
新曲だけで新しい様式を作るのではなく、countryとgospelの既存曲をrockの聴衆へ持ち込んだ。過去の音楽を資料として引用せず、Nashvilleの奏者とともに当時のバンドのレパートリーとして演奏している。
Nashvilleの演奏者と作った音
録音にはLloyd Green(ロイド・グリーン)のpedal steel、John Hartford(ジョン・ハートフォード)のbanjoとfiddle、Clarence White(クラレンス・ホワイト)のguitarらが参加した。Los Angelesのメンバーだけでcountryらしさを再現せず、その演奏方法を知る人物と録音している。
そのためpedal steelは背景の効果音ではなく、歌と同じくらい旋律を担当する。「I Am a Pilgrim」では声と簡潔な弦楽器、「You Don’t Miss Your Water」ではsoul songをcountryの編成へ移す。
従来のByrdsを象徴した12弦guitarの響きは後退するが、複数の声と曲の選び方にはfolk時代からの連続性がある。全面的な方向転換でありながら、別のバンドになったわけではない。
Gram Parsonsの声が差し替えられた経緯
Gram Parsonsは複数曲でlead vocalを録音したが、契約上の問題を背景に「The Christian Life」と「You Don’t Miss Your Water」ではRoger McGuinnの声へ差し替えられた。後年の再発盤ではParsonsのvocal版も聴ける。
初回盤だけを聴くとMcGuinnがcountry曲の中心に見えるが、制作過程を含めるとParsonsの役割は大きい。「Hickory Wind」ではParsons自身の声が残り、本作の人物像を最も直接的に伝えている。
この緊張は録音後の短期間で表面化し、Parsonsはバンドを離れた。その後Chris HillmanとThe Flying Burrito Brothersを結成し、本作の方向をさらに進める。
代表曲と聴きどころ
You Ain’t Goin’ Nowhere
Bob Dylan作で、アルバム冒頭に置かれた。pedal steelとbanjo、複数の声が重なり、ByrdsのchorusとNashvilleの楽器を一曲で示す。
方向転換を説明してから聴かせるのではなく、最初の数秒で伝える導入である。countryに不慣れなrockの聴き手にも入りやすい旋律を持つ。
Hickory Wind
Gram ParsonsとBob Buchanan(ボブ・ブキャナン)の共作。故郷の風景を思い出す歌詞を、Parsonsが抑えた声で歌う。派手な展開を作らず、fiddleとpedal steelが言葉の間を埋める。
本作でParsonsの考えが最も明確に聞こえる曲であり、後のsolo活動でも歌い続けた。countryを様式として借りるのではなく、自分の経験を置く場所として使っている。
The Christian Life
The Louvin Brothersの曲。信仰と生活を結びつけた内容を、original albumではRoger McGuinnが歌う。rockの反抗性とは異なる価値観を、皮肉にせず取り上げた。
Parsonsのoriginal vocal版と比べると、同じ伴奏でも人物の見え方が変わる。再発盤を含めて聴く価値がある曲である。
You Don’t Miss Your Water
William Bell(ウィリアム・ベル)のsoul songをcountryの編成へ移した。失ってから大切さに気づくという内容を、tempoを落とし、pedal steelを使って歌う。
countryの古典だけでなく、別ジャンルの曲をcountryとして解釈した例である。後のWest Coast rockで頻繁に行われる、soulとcountryの接続を先に示している。
One Hundred Years from Now
Gram Parsons作で、Chris Hillmanとの声の重なりが中心になる。現在の評価や噂が時間とともに意味を失うという内容を、軽快な演奏で歌う。
ParsonsとHillmanが次に作るFlying Burrito Brothersへ最も直接的につながる曲の一つ。本作を一度きりの実験ではなく、次のバンドの出発点として聴ける。
収録曲
- You Ain't Goin' Nowhere
- I Am a Pilgrim
- The Christian Life
- You Don't Miss Your Water
- You're Still on My Mind
- Pretty Boy Floyd
- Hickory Wind
- One Hundred Years from Now
- Blue Canadian Rockies
- Life in Prison
- Nothing Was Delivered
ジャケットについて
黒い背景の中央に人物を置き、黄緑の花輪、馬、植物、装飾文字で周囲を囲む。古いrodeo広告や民芸画を思わせる平面的な構図で、メンバー写真は使っていない。
1968年のrock albumらしいpsychedelicな写真ではなく、古い印刷物へ接近した意匠を選んだ。中身が当時の流行から離れ、countryの過去へ向き直ったことが、音を聴く前から分かる。
発売時の不振と後年の評価
アルバムはBillboard 200で77位にとどまり、当時のByrds作品として商業的には成功しなかった。rockの聴衆にはcountry色が強く、country側からは長髪のrock bandとして警戒され、すぐに大きな市場を得ることはできなかった。
一方、後続のmusiciansが同じ接点を広げたことで評価が変わった。2000年にはGrammy Hall of Fameへ選ばれている。売上によって時代を代表した作品ではなく、後から続く音楽によって重要性が明確になった作品である。
どんな人におすすめか
- country rockの起点を一枚の録音から知りたい人
- Gram ParsonsとChris HillmanがFlying Burrito Brothersへ進む前を聴きたい人
- Bob Dylan、gospel、soulがcountryの演奏でどう変わるか興味がある人
- pedal steel、fiddle、banjoを使ったband arrangementを聴きたい人
初めて聴くなら
まず「You Ain’t Goin’ Nowhere」でByrdsのchorusとNashvilleの楽器を聴く。次に「Hickory Wind」でGram Parsonsの中心的な役割を確認し、「You Don’t Miss Your Water」と「One Hundred Years from Now」へ進むと、本作の幅と次のバンドへの接続が分かる。
次はFlying Burrito Brothersの『The Gilded Palace of Sin』へ進むと、Gram ParsonsとChris Hillmanがsoulとcountryの接続をどう深めたか比較できる。Los Angeles側の別の展開はPocoでもたどれる。
関連ページ
- アーティスト: The Byrds
- アーティスト: The Flying Burrito Brothers
- アーティスト: Poco
- アルバム: The Gilded Palace of Sin
- 特集: ウエストコーストサウンド名盤10選
参考資料
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