Joni Mitchell の8作目スタジオアルバム。『Court and Spark』から続くジャズへの接近を、より自由で個人的な構造へと進めた作品である。1975年末から1976年前半にかけての移動生活、とくに車での旅の感覚が曲全体に流れており、「旅と内省」のアルバムとして聴かれることが多い。
Weather Report のフレットレス・ベース奏者 Jaco Pastorius が4曲で参加し、流麗で歌うような低音のフレーズが、Joni のオープン・チューニングのギターと並走する。本作の独特の浮遊感は、このギターとベースの距離感から生まれている。タイトル「Hejira」はアラビア語の「ヒジュラ(移住/出発)」に由来し、Joni はそこに「名誉ある逃避」のような響きを見出したとされる。
どんなアルバムか
『Hejira』は、分かりやすいシングル曲を並べた作品ではない。曲は長く、歌詞は密度が高く、コード進行も定型的なフォークやロックから離れている。それでも冷たい実験作ではなく、車窓、砂漠、ホテル、街角、孤独、自由への欲望が、一本の長い旅のようにつながっている。
ローレル・キャニオン期の Joni Mitchell を聴いてきた人には、『Blue』の私的な深さと、『Court and Spark』以降のジャズ感覚が交差する地点として見える。西海岸ロックの文脈では、フォーク・ロックがジャズ/フュージョンへ広がっていく重要な一枚である。
Jaco Pastorius の存在
Jaco Pastorius は「Coyote」「Hejira」「Black Crow」「Refuge of the Roads」に参加している。彼のベースはリズムの土台というより、もう一つの旋律として動く。Joni の歌とギターに対して、低音が反応し、回り込み、時には先に景色を描く。
この組み合わせは、『Hejira』を単なるシンガーソングライター作品から大きく押し広げている。Joni Mitchell をロック側から聴いている人にとっても、Jaco の参加は本作への分かりやすい入口になる。
収録曲
- Coyote
- Amelia
- Furry Sings the Blues
- A Strange Boy
- Hejira
- Song for Sharon
- Black Crow
- Blue Motel Room
- Refuge of the Roads
一般的な評価
ビルボード200で13位。商業的にはピーク期にあったが、楽曲構造はシングル向けのものではなくなり、長尺・ジャズ的な進行が主体となった。Joni Mitchell 本人が後年「私のキャリアで最も他人にカバーされにくい作品」と評したように、独自の音楽語法を確立した一枚として位置づけられている。ロック寄りのリスナーには取っつきにくいが、ジャズ/フュージョン側からの評価も高い。
関連ページ
- Joni Mitchell ── ローレル・キャニオンからジャズ期までの流れを見る。
- Blue ── 私的なソングライティングの出発点として聴く。
- Court and Spark ── ジャズ語法へ向かう前段として聴く。
- Joni Mitchell『Court and Spark』案内 ── 『Blue』から『Hejira』へ向かう流れを整理する。
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